生物はなぜ死ぬのかを読んだ感想

みなさんこんばんは。

 

今回は生物はなぜ死ぬのかを読んだ感想です。

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(2021年出版)

 

挑戦的なタイトルで哲学的な印象を受け、なおかつ科学的に説明をしているということで読みたくなりました。ベストセラーとして、多くの人が紹介していたのも、読もうとした理由です。

 

以下、書籍より引用した文章については下記のボックスで囲みます。

 

 

著者は?

著者は小林武彦氏です。

東京大学定量生命科学研究所教授です。生物科学学会連合の代表も務めています。

著書に寿命はなぜ決まっているのかDNAの98%は謎があります。

 

 

印象に残った内容は?

生物がなぜ死ぬかについて順を追って説明している書籍です。最初に生命の誕生、生物の仕組み、生物の死に方、人間の死に方。そして最後になぜ人間が死ぬのかを解説しています。結論からいうと……と結論を書きたくなるのですが、ネタバレが嫌いな人もいるかと思うので、その結論は最後の感想の部分で書きます。知りたくない人は、私の感想は読まないでください。

 

進化の分かれ道

一つは昔とあまり変わらない環境にそのまま棲み続けて、そこから離れられなくなったもの。現在でも、例えば海底の熱水が噴出するような原始の地球に似た環境に生息する生物がいます。普通に考えればそんな熱いところにわざわざ棲まなくてもいいのにと思いますが、そうではなく、元々そういうところに棲んでいて、周りが変化して逆にその環境から抜け出せなくなり、大昔の姿のままで存在しているのです。p61

これはなるほどと思いました。一つ謎が解けました。

確かになぜそんな危険な場所にいるのだろうと思っていたのですが、そのままの姿でいたため、周りの環境が変わり抜け出せなくなったということです。現代を生きる人間でも、変わろうとしない人間は会社でも取り残されてしまいます。それでも生き残ることはできますが、よりよい生活を得るためには、やはり進化は大事に感じました。

 

進化と淘汰

深海とは逆ですが、サケはなぜわざわざ大変な思いをして川の最上流まで遡って産卵するのでしょうか。もうおわかりのことと思いますが、最上流の浅いところは、卵や稚魚を食べる捕食者(魚)が比較的少なく、河口よりも安全だからです。そしてわざわざ生まれた川に戻る理由は、その川には大きな滝や遡上の障害となるものはなく、最上流まで遡れることを自身の幼少期の経験として知っているからです。~中略~

このすごい能力も、突然備わったわけではなく、記憶力の悪い種は川を間違えてしまい、生き残れなかったと推察できます。p87,p88

進化するためには、多種多様な種が存在することが必要です。

その中である種が生き残るためには、他のある種が死なないといけません。そうしないと、生き残ったある種の濃度が濃くならないからです。

まるで薬のスクリーニングのように感じました。ある病気に対する薬を探す方法として、スクリーニングする方法があります。簡単にいうと選別です。色々と方法はあるのですが、ある種のスクリーニングでは、大量の薬候補化合物の入った中に、病気のタンパク質を入れます。その後、病気のタンパク質を別の容器に入れ洗浄すると、病気のタンパク質に結合する薬候補化合物が剥れて見つかります。これを何度も繰り返すと、一番結合する薬候補化合物濃度が高くなります。似てません?

 

ハダカデバネズの働き方

布団係はゴロゴロして子供のネズミを温め体温の低下を防ぎます。寝るのが好きな個体には、人気の職種かもしれません。真社会性の大切なことは、これらの分業により仕事が効率化し、1匹あたりの労働量が減少することです。実際に布団係以外の多くの個体もゴロゴロ寝て過ごす姿が見られます。こうした労働時間の短縮と分業によるストレスの軽減が、寿命の延長に重要だったと思われます。そして寿命の延長により、「教育」に費やせる時間が多くなり、分業がさらに高度化・効率化し、ますます寿命が延びたというわけです。p113

これらは面白い知見でした。

ハダカデバネズミですが、ネズミの中ではかなりの長寿です。通常のハツカネズミが2年前後の寿命ですが、ハダカデバネズミは30年です。

その秘密が上記引用文です。

重要なのが、分業、労働力の減少、ノンストレス、さらに教育。これらは今後の社会でますます重要性が増していくと思います。良い未来の社会モデルとして、ハダカデバネズミの生活を覚えておきたいですね。

 

参考までに、ハダカデバネズミの画像が載ったサイトを添付します。見た目は……よくないですよね。

LIFE INSIDER

2020年は、ネズミ年。がんにならない、老化もしない、さらに痛みも感じない。加えて、高度な社会生活を営む「ハダカデバネズ…

 

腹八分目は重要

食餌を減らすと寿命が伸びる理由の一つとして、代謝の低下が考えられています。生物は呼吸によって栄養を燃やして、エネルギーを得ています。エネルギーは、細胞の活動や、哺乳動物の場合には体温を維持するのにも使われます。当然、栄養が多ければそれだけ燃やす量も多くなります(「代謝が活発になる」と言います)が、副産物も多く出ます。

その一つが活性酸素で、前にもお話ししたように、これがDNAやタンパク質を酸化し、それらの働きを低下させます。この活性酸素の量が食餌制限によって減少し、寿命延長に貢献していると考えられています。p184,185

食事は限界まで食べない方が良いことはみなさん知っていると思います。逆に、年収が低い人ほど、腹一杯まで食べる傾向があると思います。すみません。データは知らないですが、私の人生31年の経験ではそういう傾向にありました。

本書では2つの例が紹介されています。1つは酵母で、糖分を1/4に減らすと、寿命が30%延びたそうです。

また、サルでも、70%のカロリーにすると、病気と死亡リスクが低下したそうです。多くの書籍で引用され、ビジネス本を読んでいる人はよく知っていることだと思います。

私もこのブログで何度も書いています。一応参考までに、老化の研究をした実際のデータを載せます。以下のサイトです。

 

実際には、データが微妙という意見もあるそうですが、一応参考までに……

 

ともかくその考察としては、処理する食物エネルギーが減少することで、活性酸素の発生量も減少します。それにより無駄な酸化が起きにくくなることで寿命が延び、病気の発症率が下がるようです。

これは勉強になりました。

 

感想

私としては面白く読めました。

本書では、生物の仕組みを簡便に紹介しつつ、一般的な生物と人間の生き方、死に方を紹介、最終的に生物の死ぬ理由を説明しています。

 

非常に面白かったです。

私は工学部、理工学府を出ているので、タンパク質合成などの仕組みを理解しつつ読めましたが、DNA、RNAなどになじみがない人には、少しハードルが高いようにも感じました。

それでも非常に簡単に書かれているので、理系を目指している人が研究者になるとっかかりとしても良いかもしれませんね。私が学生の時この本を読んでいたら、老化の研究者になっていたかもしれません。実は、老化の研究者になりたかったんですけどね。

 

私が面白く感じたのは、生物の進化の歴史です。本書は、新書サイズであり、書籍のスペースの都合もあるためか、とても簡潔に書かれています。それもあり、非常に理解しやすいように感じました。詳細を知りたい人には物足りないかもしれませんが、私は面白く読めました。

 

さて、本書のタイトルでもあるなぜ生物が死ぬかですが、理由は子孫を生かすためと、著者は結論づけています。

死というのは、人間が忌み嫌う感情を持っていますが、種が生きていくためには死が必要です。どういうことかというと、ある種が死んでくれないと他の種が生きれないのです。つまり、食って食われての関係ですね。死ぬことで他の種が生きるのです。人間は感情があるため、死について特段著しい反応を示しますが、死は当たり前なのです。

多くの生物種は、有性生殖によって新しい遺伝子を残します。簡単にいうと、父と母の性質を持った子供が生まれることですね。このハイブリットな遺伝子が重要で、ハイブリットな遺伝子は、父と母よりも性能が良いのです。つまり、多様性に満ちており、親よりも優秀な存在です。そのため、親よりも子供が生き残った方が、種としては重要な戦略です。

しかし、人間では、子供が産まれても親が育てる必要があります。サケなどは卵を産んだ瞬間に死にますが、人間ではそうはいきません。人間は、社会的コミュニティを作り、子供を育てる必要があるのです。

と少し脱線しましたが、生物が死ぬのは子孫を生かすためです。

 

確か、10年ほど前にも、なぜ老化して死ぬのかという本を読みました。その時も、老化は親が力を無くし、親の持っていた資源を円滑に子供に渡すためとありました。

ほとんど同じような内容で、本書を読んだ後も納得でした。

 

本書は文系にも読みやすいように書かれていると感じています。途中DNAやRNAなど少し難しいところもありますが、概要を理解するには、詳しいことを知らなくても理解できると思います。なぜ生きるか知りたい人は、読む価値はあると思います。